"Born again"
2008年の11月より始まった平成20酒造年度の造りは、引き続き鈴木隆氏を醸造長としたほかは、なにもかも違う布陣となった。秋田県南部の農村・山内村から季節雇用の蔵人を招聘するかわりに新しい若手職人を募ったのだった。前シーズンの酒造りまでは、山内杜氏組合所属の蔵人たちに現場を任せていた。しかし現役農家である彼らの平均年齢は70歳。最高齢は80歳という構成である。体力の限界を迎えてリタイアするものが、毎年続出していた。帰郷してから二年目を迎えるにあたり蔵元は、現場人員も限界にきているのを感じざるを得なかった。
当時「新政」生産の85%は「普通酒」であった。15名ほどの年配の蔵人たちの仕事は、ほとんど「普通酒」づくりに費やされていた。これに加えて明確な生産計画もなく製造が長年続けられていたため、その在庫も過剰であった。ほっておくとどんどん劣化してしまうので、在庫の多さは悩みのひとつであったが、これは同時にチャンスかもしれないと蔵元は思うようになった。なぜならこれだけ在庫があれば、しばらくは「普通酒」は造らなくて済むわけである。この隙に、少数人数の酒造りで様々なトライをし、自由な発想で「普通酒」に代わる新しい「柱」を建てることができはしないだろうか———?
また蔵元は「普通酒」は「吟醸酒」といった高級酒よりもよっぽど製造が難しいとも感じていた。前のシーズンである19BY(2006-2007)、大勢の年配の蔵人たちに入り混じり実際に現場で酒造りをしてみて、それまで抱いていたイメージとは真逆の感想を持つことが少なくなかった。酒造りにおいて、本当に製造が難しい、とらえどころがないのは「普通酒」なのではなかろうか。これに比べて、造りが難しいイメージのある「吟醸」造りは、典型的なスタイルのものを踏襲する場合、実はそこまでの難易度はない。なぜなら「吟醸酒」には明確なマニュアルが存在し基本的な作法が完成している。また現場の技術以上に、酵母の選択などが酒質の多くを決めてしまう。そこに最新情報の収集能力が加われば、比較的容易に先端的高級酒が作れてしまう傾向があった。だからこそ蔵に帰りたての若造ですら、勉強次第でそこそこのものが作れてしまうことが珍しくないのだ。実際、前シーズンは酒造り初年度にも関わらず、酒類総合研究所での学びの成果を活かしてみたところ「全国新酒鑑評会金賞」「秋田県清酒品評会知事賞」「東北清酒鑑評会優等賞」といきなり最高成績で三冠をいただいてしまっている。もちろんありがたいことには代わりはないのだが、冷静になってみると「こんなことでこの業界は良いのか」という疑念も浮かんでこざるを得ないのが正直なところであった。しかし「普通酒」は違った。「普通酒」の味は、その地方の顧客の日用酒である。半世紀におよぶアレンジが蓄積されており、予想以上に蔵によって味わいの差が大きいのである。かなり甘い酒、辛口の酒、重い酒、軽い酒、それぞれに固定のファンがついている。しかもこの味は変えることが許されない。少しでも変わったら容赦なくクレームが来てしまう。客は毎日その同じ酒しか飲んでいないのだから当然変化には敏感だ。客の「馴染み」の味であるかが争点であり、造り手にそれを変える権利はない———これは味噌や醤油のような調味料の世界と似ている。そして、こうした酒を造れるのはやはり長年その蔵を取り仕切ってきた古参の造り手である。限界までコストを抑えながら、いつでも同じ味わいを、しかも大量のボリュームで作り出すのは実に難儀である。成分なんて分析している暇もないし、そんな金もかけられないのだ。実際に、一円も余計な金はかけていられない!こうした修羅場のような現場をこなすには、まさしく勘所こそが重要になる。最新の醸造学を学んだものから見ると、たいして機械化されていない地方の古い酒蔵の「普通酒」は、大味で雑な造りがされているように見えるかもしれないが、それは違うのである。
できたら「新政」を支えてくれている顧客に、そのまま「普通酒」を嗜んでもらいたいものだが、造り手としても経営者としても、考えれば考えるほど、このまま「普通酒」を主体としていける自信は失われていくのだった。悩んでいる暇もなかった。激烈なコスト競争の中にあって、「新政」の普通酒はどんどん売れなくなってひどい赤字を叩き出している。売れなくなればなるほど、赤字は拡大する。その度合は加速度的に早まってきていた。
「普通酒」の在庫をあてに時間を稼ぎ、短期間で蔵のすべてを根こそぎ変える必要がある。こうして蔵元は、酒造りが終わると同時に新たな人員———できれば酒造経験のある若くて熱意ある人材を探し始めた。様々な伝手を頼った結果、最終的には長崎県・山口県などから造り手が協力に来てくれるという僥倖に恵まれる。また廃業した地元の酒蔵の子息も参加してくれたほか、通勤可能な秋田市内の農家にも引き続き蔵人として働いてもらうことができた。こうして、シーズン開始直前に社員・アルバイト合わせて7人の造り手をなんとかかき集めることができたのであった。
こうして始まった当シーズンは、総生産量を前年の3分の1以下に減少させる代わりに、様々な実験作でスケジュールが占められることとなった。それらの本質は、現在市場にあふれる典型的な「吟醸」から離れようとする努力とも言えた。すでにポスト「吟醸」のかたちを探ろうとしていたのである。具体的には、6種類以上の酵母の比較醸造、県内外の様々な酒米の比較醸造、地元大学との共同醸造、山廃仕込や独自の発案による醸造用乳酸を使用しない酒母、貴醸酒、また低精米の純米酒醸造などを短期間でこなしている。これらの努力が結実し、後に「新政」のラインナップの中核となる「陽乃鳥」、また「翠竜」(「亜麻猫」の前身)といった作品が生まれることになる。ここが疑いなく「新生・新政」の開始点であって、最高度に熱量が溢れていたシーズンであったと言えよう。
当年度は、前年度よりさらに多様な米と酵母を使用している。「きょうかい6号(泡なし・泡あり・公共機関と共同開発した変異株)」、「9号」、「14号」、「15号」、「18号」、「明利酵母」、「秋田県酵母 No.12」などを用いて清酒酵母の歴史を理解する取り組みを行っている。原料米については、秋田県産の各種酒米(酒こまち・秋の精・美山錦)のほか、県外産米も積極的に使用している。他県産の銘柄米としては、「山田錦(兵庫)」、「雄町(岡山)」、「五百万石(新潟)」、「出羽燦々(山形)」、「出羽の里(山形)」など。各地の酒造好適米を使用し、その特徴や本質を見極めようとした。本シーズン中、蔵元がもっとも気に入った酒は「やまユ 雄町」という酒であったが、これが6号酵母を用いて醸した酒であったため、翌年以降の製造方針は、新政の全製品において使用酵母を「きょうかい6号」系(2012年までは変異株含む)に統一することとなった。
原料米の出来は100点満点中90点のシーズン。この2008年度収穫米は、特に東北地方においてはベストヴィンテージの一つといえるシーズンであった。前季に比して一転、9月の気温がやや低かったため米質としては全国的に溶けやすくなっている。しかし、もともと東北は硬質米が多いため、結果として秋田県産米については非常にバランスのとれた酒米が収穫されることになった。溶けやすいだけに長期保管の意味ではいささか19BY(2006-2007)に劣るものの、そのかわり新酒時の飲みやすさ、華やかさなどの点では申し分ない仕上がりの酒が続出した。当時、新たな航海に乗り出した当蔵としては幸運なシーズンであった。
-
20BY July.2008 - June.2009赤やまユ 第一世代
- 価格:¥1,650-/720mℓ・¥3,300-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:17.2%
- 精米歩合:55%
- 原料米:赤磐雄町
- 原料米収穫地:岡山県
- 日本酒度:+2 / 酸度:1.4 / アミノ酸:0.8
当初は、当蔵の純米吟醸として製造された酒である。「きょうかい6号」の誕生の秘密を探っていた頃でもあり、1930年当時の当蔵の使用米が「亀の尾」と「雄町」であったことから、「きょうかい6号」と「雄町」の組み合わせを再現することとなった。なお、20BY当時は、「雄町」はさほど人気の米ではなく安い価格で取引されていたため、容易に入手が可能であった。西日本の米にはあまり馴染みがなかったのだが、「山田錦」については扱い慣れていたので、なんとか扱えるだろうとたかをくくっていたことは確かである。なぜなら「雄町」は、「山田錦」の親にあたる存在だからである(「山田錦」の親である「短稈渡船」は「雄町」の改良品種である)。ところが、この米はまったく予想外の特徴を持っていた。そもそも酒造年度としても溶けやすい米の年であったのだが、「雄町」は想像を絶する柔らかさであった。御多分に洩れず麹造りで大失敗してしまったのだが、酒にしてみるとはたして当蔵の同年度最高といえる傑作となってしまった。半分を酒類卸「日本名門酒会」経由にて「純米吟醸 六號」として販売。そして残りの半分を(先年に試験的に発売していた)「やまユ」の名でリリースすることになった。デザインも一新し、酒米の米の特徴をよくあらわすため、赤のカラーリングを前面に出し、一見なんと読むかわからない「屋号」的なものを説明もなく大きく記すなどした。結果としてこの酒は当シーズンで最も高い評価を受けることとなった。「きょうかい6号」で戦うことが可能であるどころか、ベストな選択であるということがここで示された瞬間であった。こうして「やまユ」は「秘醸酒」とともに、この後の「新政」の方向性に甚大な影響力を与えることになる。
-
20BY July.2008 - June.2009青やまユ 第一世代
- 価格:¥1,550-/720mℓ・¥3,100-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:17.4%
- 精米歩合:50%
- 原料米:美山錦
- 原料収穫地:秋田県湯沢市
- 日本酒度:±0 / 酸度:1.3 / アミノ酸:1.2
当初は特に販売予定のない純米吟醸として醸造されたが、「やまユ」(赤やまユ)の発売を受けて、急遽発売が決定した。「美山錦」は苦みが出やすい品種とのことで警戒していたが、結果的に淡麗でやや甘口の酒質に仕上がり、フルボディの「赤やまユ」と好対照を成す佳酒となった。その意味ではこの酒は、「美山錦」をはじめとする東北の硬質酒米をいかに魅力的に表現するかという点についてヒントを与えてくれた貴重な作品であった。西日本の酒米の派手な表現力とは異なる、東北の硬質酒米の個性的な趣は、いぶし銀のような魅力を持つ。こうして最終的に、新政は秋田県産米のみの使用へと柁を切ることになるのだった。なお、使用酵母の「六號改」とは、秋田県醸造試験場と共同で選抜した「きょうかい6号」の変異株であり、現代的で華やかな吟醸香(カプロン酸エチル)を出すことができる「6号系酵母」である。しかし、特殊な酵母に頼る製法が逆に画一的な酒質に収束されがちになるということから、こうした改良株の使用は徐々に減っていった。実際のところ、このシーズンにおいてもノーマルの「きょうかい6号」を使用した「赤やまユ」のほうに酒質の軍配はあがっていたのである。翌シーズン以降は、こうした「高香気性の六号系酵母」は、公的コンテストに出品される酒のみに限って用いられ、ついに22BY以降は、秋田県立大学と共同醸造していた「究」だけに例外的に用いられるのみになった。そしてついに24BY(2012~2013)からは醸造協会の頒布する「きょうかい6号」のみの使用を方針とすることになるのであった。
-
20BY July.2008 - June.2009純米仕込貴醸酒
陽乃鳥(ひのとり)第一世代- 価格:¥1,500-/720mℓ・¥3,000-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:16.5%
- 精米歩合:60%
- 原料米:亀の尾
- 原料米収穫地:秋田県湯沢市
- 日本酒度:-20 / 酸度:2.0 / アミノ酸:0.8
日本酒業界において、酸度が高い酒は長らく毛嫌いされる傾向にあった。製造側の視点から見れば酸度の高さは雑菌汚染の指標となっているからでもあったし、市場においても「食事を邪魔しない、量を飲める酒が良い酒」という通念が一般的であった。ところが当蔵は、真逆の酒質を好み、濃醇で酸が高めの酒を求めていた。しかし精米歩合が60%以下の純米吟醸酒では、(もろみが乳酸菌などに汚染されていない限り)酸度が2以上にはなりにくい。もちろん酸が高ければいいわけでない。我々も雑菌に汚染されたような酸味は求めてはいない。あくまでも「美しい酸味」にあふれる甘口酒を求めていたのである。結局我々はその製法を「貴醸酒」というジャンルに見いだすことになった。
「貴醸酒」は、その起源を平安時代の「延喜式」に持つとされている日本酒醸造の原初の形を保つものだ。製法としては、仕込水のかわりに大量の酒を用いて仕込むことを特徴とする。酵母にアルコールのストレスがかかることで酸度が上がるほか、加えられた酒が持っていた酸度や甘みも加わり、濃醇な旨口酒になる。当蔵はあくまで新鮮な味わいを求めていたので、完成後は貯蔵熟成を行わず、すみやかに出荷することになった。こうして当時としては珍しいフレッシュな「貴醸酒」が誕生することになったのである。また、こうした新しい香味を持つ酒や、斬新な製法の酒については、動物(風水の四神にあやかった神獣)をラベルにあしらい「秘醸酒」と名付け、販売することとした。 -
20BY July.2008 - June.2009純醸酒母仕込 特別純米
翠竜(すいりゅう)- 価格:¥1,500-/720mℓ・¥3,000-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:17.1%
- 精米歩合:60%
- 原料米:麹米、山田錦・掛米、美山錦
- 原料米収穫地:麹米、兵庫県/掛米、秋田県湯沢市
- 日本酒度:+1 / 酸度:1.8 / アミノ酸:0.9
当蔵の初期の念願「速醸酒母への決別」のために設計された奇酒である。醸造用乳酸は、生酛系酒母(山廃酒母含む)であれば使用することは避けられる。しかしながら当時の当蔵の技術では、それはすぐには不可能であった(同年に講師を招聘し「山廃」を学習していたが、すぐにすべてを「山廃」にするのは時期尚早であった)。当時の技術力で、また生酛系酒母とも違う手法で、醸造用乳酸を使用せずに済む酒母を模索し、最終的に発案したのがこの「翠竜」に用いた酒母製法である。メカニズムは簡易なもので、単に醸造用乳酸を添加しない。しかし、雑菌汚染のダメージを最小限にし、酵母がすみやかに増殖するように、酒母そのものを三段仕込みとした。しかも酵母が酸生成を行いやすい20度以上で仕込む。こうして酵母が分裂時に産生する酸をも利用し、雑菌の発育を最小限に抑えてすみやかに酵母を増やしきる———というシンプルなアイデアを採用した。「純醸酒母(じゅんじょうしゅぼ)」と名付けられたこの酒母は無事に完成し、もろみも順調にアルコール発酵を完遂することとなった。酒質は、独特な辛口酒というべきスタイルで、全体的に葡萄や柑橘に似た香りを持ち、荒っぽく渋みが強い複雑な印象を与えるものだった。こうしてこの酒は、四神の一角である青龍のイメージを与えられ、「秘醸酒」の二番手として製品化されることとなる。しかしこの「翠竜」は翌シーズンに醸造が失敗してしまうのだった。野生酵母を抑え切ることに失敗し、もろみは腐造しかかり、あわや酒でなく酢をつくるところであった。しかし「醸造用乳酸無添加」のコンセプトは捨てられることなく引き継がれ、「亜麻猫」の誕生と結びつくことになる。
-
20BY July.2008 - June.200980%純米酒
- 価格:¥900-/720mℓ・¥1,800-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:17.2%
- 精米歩合:80%
- 原料米:酒こまち
- 原料米収穫地:秋田市河辺
- 日本酒度:+5 / 酸度:1.6 / アミノ酸:0.9
通常、米は磨けば磨くほど酒質はよくなるとされているが、その一面的な考え方にアンチテーゼを示そうと醸造を行った「低精米シリーズ」の第一弾である。「米を磨く」という行為は、実は特に技術を要しない工程である。というのも米を精米機に入れてほっておくと、自動的に勝手にその精米歩合になって出てくるからだ。そんな「精米歩合」が、酒のもっとも重要な良し悪しの指針となり、「吟醸」の定義ともなっていることは安易ではないか。「大吟醸」=「高い酒」=「良い酒」という一般的な通念は、実は日本酒を伝統産業ではなく、加工業に近づけるものでないのか———という問いかけがベースになっての企画であった。原料にハンディがあるほど、良い酒を造るには技術がいるものである。一般的に醸造には用いられることがない精米歩合80%クラスで良くできた酒ともなれば、磨いた米で醸された酒より本質的な価値を持ち得るのではないか? と、低精米の原料に徹底的な吟醸造りをほどこしてみた。実際「80%純米」は、醸造面での配慮以外にも、上槽後のすみやかな瓶詰めと火入れなどの手間ひまによって、その精米歩合を感じさせない良酒となった。
-
20BY July.2008 - June.200985%純米酒 第一世代
- 価格:¥850-/720mℓ・¥1700-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:16.7%
- 精米歩合:85%
- 原料米:酒こまち
- 原料米収穫地:秋田市河辺
- 日本酒度:+2 / 酸度:2.4 / アミノ酸:1.5
「80%純米」同様の「低精米シリーズ」の目玉となる精米歩合85%の純米酒である。正直なところ醸造する前は「85%」といえど「80%」とたいして変わらないだろうとたかをくくっていたのだが、結果としては予想外に難易度の高い仕込となってしまった。「80%」は通常の純米酒とさほどかわらない操作で済んだのだが、この「85%」はまるきり別物であった。米は外層部に近づくほど、栄養分が顕著に蓄積している。精米歩合にしてたった5%の違いではあるが、米からもたらされる栄養は比較にならないほど増えてしまい、結果として微生物の発酵力も桁違いとなったのだった。特に麹造り、ならびに、もろみの温度制御については至難を極めた。とはいえ「酒こまち」の美麗さが雑味を最後までカバーし、酒としては飲みごたえある佳酒として落ち着いたのは幸いであった。なおこの「低精米シリーズ」が典型的に体現しているように、当蔵は一貫して日本酒においては手工芸的な面こそが各蔵の個性を発揮できるポイントであって重要な点であると考えている。必ずしも短期的には酒質の向上につながらないことでも、文化的に価値のあることであればそれを尊重する。その意味で、この「低精米シリーズ」にこめられた考え方は、酵母限定・酒米産地限定・速醸酒母廃止などの将来の当蔵の方針と根をひとつにするものである。
-
20BY July.2008 - June.2009六號 純米
- 価格:¥1,155-/720mℓ・¥2,415-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:16%
- 精米歩合:60%
- 日本酒度:+3 / 酸度:1.2 / アミノ酸:1.0
地酒卸会社である「日本名門酒会」(*)のプライベートブランド商材であるこの「六號 純米」は、のちの「No.6」の先祖とでも言うべき酒である。この銘柄のいわばモダンバージョンとして「No.6」が登場するのはずいぶん後のことになるのだが、それまでには相当の酒質改善が必要であった。この当時の「六號 純米」は熟成気味の濃潤辛口酒であって、「古豪の酒」あるいは「地方の中堅蔵の酒」というような、中途半端で古臭い印象は避けられないものであった。残念ながら年を追うごとにその人気も降下しており、この20BYでの仕込み本数はわずか2本程度に減少していた。当蔵としても、シンボルである「6号酵母」の名を冠する銘柄の味わいが芳しくないのは問題視しており、根本的なリニューアルをする必要性を感じていた。「やまユ」などの実験的作品で得た醸造的知見を活用もしてはいるが、実際のところ最も重視したのは「後工程」である。短期的に酒質を向上するためにもっとも重要なのは、搾ってから後の工程の精度を上げることなのだ。殺菌方法は人手がかかるが湯煎が一番良く、保管状況を改善するために冷蔵庫の増設は必須であった。赤字続きだろうがなんだろうが、必要な設備投資と人材補充は歯を食いしばって行わねばならなかった。しかしながら幸運なことに、この成果は意外とすぐにあらわれることになる。早くも翌シーズン、この「六號 純米」の人気は急上昇することになるのだった。
*「日本名門酒会」とは、”地酒のパイオニア”と呼ばれ、地方銘酒を全国で初めて流通させた地酒卸である。 -
20BY July.2008 - June.2009六號 純米吟醸
- 価格:¥1,650-/720mℓ・¥3,300-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:17.2%
- 精米歩合:55%
- 原料米:赤磐雄町
- 原料米収穫地:岡山県
- 日本酒度:+2 / 酸度:1.4 / アミノ酸:0.8
このシーズンから登場となる「六號 純米吟醸」は、「赤やまユ」の発売後に創設されたものである。「雄町」を原料とする名もなき酒の出来が想像以上に高かったため、急遽「やまユ」ラインの創設が行われたが、(秋田県内の店を除くと)4〜5軒程度の直接取引の酒販店に提供されたため、実際のところ3分の2ほどの酒が余ってしまっていた。それらの受け皿にするために、「六號 純米」の上位銘柄機種である「六號 純米吟醸」が創設されたのである。そして2009年中頃にこの「六號 純吟」は、「はせがわ酒店」社長・長谷川浩一氏の目に留まることとなった。氏は「磯自慢」や「醸し人九平次」といったビッグブランドを育てた第一人者であり、酒を見抜く力、酒を通して蔵の潜在能力を見抜く力は折り紙付きと言える。当時、新政は初めの実験酒である「陽乃鳥」からの縁により、秋田の天洋酒店・多摩の小山商店・池袋の升新商店といった地酒専門店とほそぼそと関係を結び始めていた頃であった。特に赤と青の「やまユ」は傑出した出来であって、これら専門店同士の紹介によって直接の取引先が増えかけていたところである。そんななか日本最大級の地酒専門店「はせがわ酒店」社長が、ひょんなことから「六號 純米吟醸」を口にすることになる。当時、長谷川社長は十数年ぶりに地酒卸「日本名門酒会」(*)の試飲会に出向いたというが、なんという奇遇であろう。帰り際、「新政」のブースですすめられるがままに酒を口にしたところ、<ぱっとしない田舎の蔵>という氏の「新政」に対するイメージが一瞬にして覆ったという。のちに「はせがわ酒店」への特別醸造酒が企画されたときに「No.6」の派生版をリリースすることになったが、これは「六號」という酒でつながることになった2社の出会いの経緯を反映したものとなっている。なお、その「No.6 H-type」(はせがわタイプ)のリリース月は、長谷川浩一氏の誕生月でもある。
*「日本名門酒会」とは、”地酒のパイオニア”と呼ばれ、地方銘酒を全国で初めて流通させた地酒卸である。 -
20BY July.2008 - June.2009秋田流 純米
- 価格:¥1,050-/720mℓ・¥2,100-/1800mℓ 完売済
- アルコール分:16%
- 精米歩合:掛米65%、麹米60%
- 日本酒度:+3 / 酸度:1.6 / アミノ酸:1.2
当シーズンの県外向けの出荷の中でも、量的に最大規模を誇る「秋田流」シリーズは、この「純米」と「本醸造」の2つのタイプが存在していた。精米歩合は65%であり、原料米は「秋の精」という酒米の中では比較的リーズナブルに手に入るものを用いている。このため特にアルコール添加を施した「本醸造」はお値打ち品であり、「天狗」などのチェーン店にも納入されていたという過去を持つ。
なおこの「秋田流」の本醸造タイプは、地元向きの「特選 本醸造」と内容的には同内容となっているが、甘口にマイルドに仕上がったものを県内に、辛口ですっきりした味わいになった場合は県外へ、という振り分けになっていた。この理由であるが、まずは土地柄による嗜好の違いがある。秋田県民は総じて、甘いものや塩辛いものを好む。これは高血圧や糖尿病が多い県であることからも裏付けられるではないだろうか。東京はこれに比べると、辛口嗜好ではあろう。こうした地域ごとの傾向を俯瞰してみると面白い傾向が見えてくる。日本海側の県の酒は「濃醇タイプ」が多く、太平洋側の酒は「淡麗辛口」が多いのである。秋田、山形〜能登半島〜山陰地方〜福岡、佐賀と続く日本海ラインは、甘口かあるいは米をよく溶かした、いずれにしろエキス分の多いしっかりした味わいの酒が多い。これに対して太平洋側は、岩手、宮城〜関東一帯とりわけ神奈川〜静岡〜関西〜高知〜九州南部と薄味、淡麗辛口が好まれている。例外として、首都圏へのマーケティングがその酒質に色濃く反映されている新潟県や、様々な文化がごった返す中部地方などはこの限りではないものの、おおよそ上記のような味わいの傾向が見られるのではないだろうか。理由は定かではないが、日本海側は湿気が多く、どうしても麹がしっかりできてしまうため、発酵食品の味わいがゴツくなる、あるいは甘くなるということが関与しているのかもしれない。 -
20BY July.2008 - June.2009とわずがたり 山廃純米
- 価格:¥850-/720mℓ・¥1,700-/1800mℓ - 完売済
- アルコール分:15.5%
- 精米歩合:60%
- 原料米:美山錦
- 原料米収穫地:秋田県湯沢市
- 日本酒度:+7 / 酸度:1.7 / アミノ酸:1.2
当蔵が新体制となって初めての山廃仕込の純米酒である。前シーズンまでの「とわずがたり」は通常の純米酒であったが、これをリニューアルして山廃化することになった。とはいえ「山廃」について何も知らなかった当蔵は、このシーズン中に最短で「山廃」を習得すべく著名な技術者を招聘した。秋田の銘醸蔵「刈穂」「出羽鶴」を擁す秋田清酒株式会社の元製造部長であり、岩手の銘醸蔵「わしの尾」で杜氏も務めた角田篤弘氏である。氏の指導のおかげで当シーズンの2本の 山廃酛は成功し、この作品として販売されることになった。なお「とわずがたり」という酒銘の由来であるが、「日本名門酒会」(*)の創業者である故・飯田博氏が命名したものである。その意は、「とわずかたらず、ゆったりと楽しむ酒」というもの。この酒のリニューアルに際して、より滋味深い酒こそふさわしいであろうと我々は考えた。そして戦後初めて当蔵に復活した山廃仕込の酒を、この酒の内容としたのである。残念なことにこの酒はリニューアルのかいなく、2年後に終売となるのだが、その後も生酛系酒母の醸造技術は向上をつづけ、ついには4年後の24BYにおいて当蔵は「速醸酒母」の完全撤廃に成功。ついで26BYには全量生酛へと進化を続けてゆくことになる。
*「日本名門酒会」とは、”地酒のパイオニア”と呼ばれ、地方銘酒を全国で初めて流通させた地酒卸である。 -
20BY July.2008 - June.2009産学共同開発限定酒
究 (きわむ) 第一世代- 価格:¥1,600-完売済
- アルコール分:16.8%
- 精米歩合:55%
- 原料米:酒こまち
- 原料米収穫地:秋田県
- 日本酒度:+5 / 酸度:1.2 / アミノ酸:1.0
秋田県醸造試験場長、ならびに国税庁醸造試験場研究室長を歴任し、当時、秋田県立大学教授であった岩野君夫氏の指導のもとに作り上げた実験酒。岩野氏は 1990 年に秋田流花酵母 (のちの「きょうかい 15 号」) を世に送り出した人物であり醸造研究界における最重要人物のひとりである。当時、岩野氏は秋田県立大学において、独自の理論で既存の市販酵母から優良株を再選抜する技術を確立していた。この「究」には「きょうかい6号」を母体に二次選抜を行って得られた「K601-pps1」という株が使用されている。味わいは通常の「きょうかい6号」と基本的に変わらないが、渋みと苦味を感じさせるアルコール類(芳香族アルコール)が、やや少なくなるというデータが得られており、実際にこの酒も辛口のわりに、ひっかかりのない爽やかな味わいだという評価であった。なお、本プロジェクトにおける醸造は秋田県立大学の醸造学講座の生徒も参加して行われた。こうした醸造体験から日本酒に興味を抱き、酒蔵への就職を志す生徒もあらわれた。実際に、そうした生徒は卒業後に県内外の酒蔵に就職している。その意味でも本プロジェクトは、清酒業界に望ましい影響を与えたものであると言える。
-
20BY July.2008 - June.2009純米 雄和
- 価格:¥-/720㎖・¥-/1800㎖ 完売済
- アルコール分:16度
- 精米歩合:60%
- 原料米:酒こまち
- 原料米収穫地:秋田市雄和
- 日本酒度:+2 / 酸度:1.3 / アミノ酸:1.0
「純米 雄和」は、秋田市の雄和地区の米と水を用いて醸した地域色の強いブランドである。新政酒造は、秋田県産米への傾倒を年々強めていたが、主な産地は秋田市の河辺地区であった。河辺地区には、すでに酒米栽培に熟達していた農家集団が存在していた。秋田県潟上市の酒蔵である「太平山」が創立をバックアップした「河辺酒米研究会」がそれである。新政酒造も「河辺酒米研究会」に酒米生産を依頼していたのだが、早期に全量秋田県産米に移行するために、他にも多様な農家へアプローチする必要も感じていた。そうした取り組みの中で、河辺地区に隣接する雄和地区も取り込んで酒米生産を増やしてゆこうという構想が浮上してきたのである。雄和地区も良質な米の産地であり、河辺地区に劣らず風光明美な田園風景が広がる広大な土地である。また雄和地区は、何よりも水に恵まれている。秋田出身の俳人である石井露月が詩に詠んだ「石巻の清水」は特に有名であり、遠方から水を汲みにくる人が絶えないほどであった。当蔵は、雄和地区の農家と交渉を続け、ついに酒米栽培を了承していただくこととなる。これを記念し、雄和地区でのみ販売される酒を特別に製造・販売する企画が持ち上がり、この作品が生まれることになったのである。「純米 雄和」は、それから6年ほど発売され続けた。販売面においては雄和地区の酒販店数軒が担当しており、「国際教養大学」に隣接する売店などでも販売され、学生が家族へのお土産に購入することもしばしばであったという。硬度がほぼゼロという超軟水で仕込まれた本作品は、異様な透明感が売りの「隠れた逸品」であった。
-
20BY July.2008 - June.2009全麹酒母使用 特別純米原酒
- 価格:¥1,400-完売済
- アルコール分:18.5%
- 精米歩合:60%
- 原料米:麹米,山田錦・掛米,亀の尾
- 原料米収穫地:麹米,兵庫県 / 掛米,秋田県能代市
- 日本酒度:+4 / 酸度:1.8 / アミノ酸:1.2
通常、酒母の麹歩合は30~40%とされているが、すべて麹を用いて酒母を仕込むことで強靭な酵母を育てることを目標とした仕込である。なお、酒母は全麹仕込であるが、逆にもろみの麹歩合は減らしており、総麹歩合としてはやや少なめになっている。麹の使用タイミングが酒母と三段仕込の前半だけに集中することになるので、より効率的に麹の酵素力を用いることができるのだ。結果として少ない麹でも、米は溶けすぎるほど溶け、実際に酵母も強靭であって、アルコール発酵も盛んに行われ、質実剛健な佳酒となった。
もともと「全麹酒母」は山形工業技術センターの当時酒類部長であった小関俊彦氏が発案した技術である。小関氏は山形のみならず酒造業界全体に名を馳せる名指導者であり、当蔵元は帰郷直後に酒造技術のみならず経営面での強い薫陶も受けている。この「全麹酒母使用特別純米」は小関俊彦氏へのオマージュ的作品でもあった。 -
20BY July.2008 - June.2009無濾過瓶囲い一回火入れ
No.12 純米吟醸- 価格:¥1,380-完売済
- アルコール分:16度
- 精米歩合:麹米55%
- 原料米:酒こまち
- 日本酒度:-2 / 酸度:1.8 / アミノ酸:1.2
この作品は、2008年に秋田県が公開した最新酵母を用いて醸造したものである。「秋田酵母No.12」と名付けられたこの酵母は、「ゆきの美人」醸造元、秋田醸造株式会社の蔵元杜氏であり、秋田県酒造組合・技術開発委員のトップでもあった小林忠彦氏の指揮のもとで生まれた酵母である。「きょうかい14号」の生みの親である故・池見元宏氏(金沢国税局鑑定官室長~秋田県醸造試験場長)が所蔵していた冷凍株を中心とする秋田県醸造試験場の酵母ライブラリから、長い時間をかけて探索された珠玉の酵母であり、その優れて個性的な味わいは、登場当時から異彩を放っていた。一般的に各都道府県で開発される“ご当地酵母”の大半は、公的審査会向けに有利な特徴を持つ酵母であるのが常なのだが(具体的には、りんごやトロピカルフルーツのような芳香が過剰なほどに強く、酸が低い)、「秋田酵母No.12」は真逆の性質を有している。この酵母は利き酒用の酵母———つまり初めに旨い酒ではなく、飲み進めるほどに旨い酒—つまり市販酒のために選抜されたものだからである。その控えめながらも凛とした上立ち香と鮮烈な酸味は唯一無二であり、今に至るまで多くの秋田県の蔵に愛用されている。当蔵における醸造も成功を収め、本作品はこの年度においては「やまユ」シリーズに次ぐ出来を示した傑作となった。
-
20BY July.2008 - June.2009新政特別頒布会
蔵人からの便り- 月々価格:¥2,600- (720ml 2本入×3ヶ月) 完売済
- 第一回:2月「特別純米 しぼりたてなまざけ」
- 「一年熟成 吟醸原酒」
- 第二回:3月「純米吟醸 しぼりたてなまざけ」
- 「純米吟醸 一年熟成」
- 第三回:4月「一回火入れ 純米大吟醸 酒こまち」
- 「本醸造 しぼりたてなまざけ」
当季より頒布会も大幅にリニューアルを行った。先年までの頒布会といえば、いわば在庫整理のようなものであって、出入り業者に買ってもらう類のマンネリ化した代物であった。当然、廃止の方向に向かうべきだったが、当時は経営が厳しく、存続しないという選択は現実的ではなかった。それならば、出来る限りきちんとしたものを提供しなくてはならないと考え、この年からは、趣向を凝らした頒布会がスタートすることになった。このシーズンはすべて新酒を用意できなかったため、まだ熟成酒が三分の一を占めているが、それなりにレベルが高いものを選んだ。また、実験的な取り組みはないものの、「しぼりたて生酒」を3つ投入することで、あたらしさを感じていただける構成にした。またラベルには、当時の醸造部員全員が登場しており、各工程をそれぞれの言葉で表現してもらった。酒造りの風景を感じつつ酒を楽しんでもらいたいという想いをこめてタイトルは「蔵人からの便り」としている。2016年現在、すでにこの6人中蔵元を除いて誰も当蔵に残っていないが、まさに彼らはベンチャー企業であった当時の新政を支えた人物たちであった。
第一回2月頒布
・特別純米 しぼりたてなまざけ(画像上段左)
【芳醇旨口 食前酒タイプ】
アルコール分:17度
原材料名:米・米こうじ
麹米:改良信交
掛米:酒こまち
精米歩合:60%
・一年熟成 吟醸原酒(画像上段右)
【淡麗辛口 食中酒タイプ】
アルコール分:18度
原材料名:米・米こうじ・醸造アルコール
麹米:出羽燦々
掛米:秋の精
精米歩合:50%
使用酵母:秋田県開発中酵母
第二回3月頒布
・純米吟醸しぼりたてなまざけ(画像中段左)
【濃醇旨口 食前酒タイプ】
アルコール分:16度
原材料名:米・米こうじ
麹米:酒こまち
掛米:酒こまち
精米歩合:65%
・純米吟醸 一年熟成(画像中段右)
【淡麗旨口 食中酒タイプ】
アルコール分:18度
原材料名:米・米こうじ
麹米:出羽燦々
掛米:酒こまち
精米歩合:49%
第三回4月頒布
・一回火入れ 純米大吟醸 酒こまち(画像下段左)
【淡麗旨口 食前酒タイプ】
アルコール分:17度
原材料名:米・米こうじ
麹米:酒こまち
掛米:酒こまち
精米歩合:40%
・本醸造 しぼりたてなまざけ(画像下段右)
【芳醇辛口 食中酒タイプ】
アルコール分:16度
原材料名:米・米こうじ・醸造アルコール
麹米:美山錦
掛米:秋の精
精米歩合:70%