22BY July.2010~June.2011
"Childfood’s End"

当シーズンは、2008年からの再スタート以来、はじめて大きな危機を迎えた年であった。当時、2つの大きな問題が現場に重くのしかかっていた。

まずは米の出来が非常に悪かったことである。軟質米の「酒こまち」をのぞき、原料米が高温障害のために溶けにくく扱いづらかったのである。当年度はちょうど全量秋田県産米に切り替わった年である。「山田錦」や「雄町」など西日本の優良な軟質酒米は使用しないことにしたのだが、秋田の酒米はそもそも硬いものばかりで、「酒こまち」「改良信交」以外に溶けやすい米が存在しないのであった。原料米そのものの特性、また気候の影響を痛いほどに思い知らされたシーズンであった。

次にもうひとつの問題とは、シーズン中に醸造チームが実質的に崩壊したことである。当季の編成は、前季同様、杜氏職に鈴木隆氏を据え置き、古関弘氏を副杜氏とする布陣でスタートした。 ただし業務の多忙さは熾烈を極めており、多大なストレスからチームワークに亀裂が入り始めたのだった。製造上のミスは頻発し、技術不足から山廃の失敗も立て続けに起こった。そのままでは発売ができない多酸もろみが続出し、現場にはとてつもないストレスがのしかかり、それは蔵内の調和をひどく乱すこととなった。メンバー間の不仲は顕在化し、不祥事なども起こる始末。こうした混乱の中、2008年度からまる3年以上当蔵を支えてきた津川正隆氏をはじめとする重要なオリジナルメンバーの多くがここで脱退することになり、後には大きな傷跡と痛みが残された。つかの間の楽園の崩壊———まさに”幼年期の終わり”といったシーズンと言える。

酒質としては「やまユ」「90%純米」などは素晴らしい出来となったが、総じて満足いくものは多くなく、まさに22BYは初めの黒歴史といえるのではないだろうか。とはいえ、上記のような苦境の中にあってさえも「新政」らしい好奇心は微塵も衰えず、低アルコール酒の「碧蛙」や、再仕込貴醸酒「紫八咫」などの斬新な作品の発売にもこぎつけることができた。整備投資が進んでいたことも後押しになった。「新屋瓶詰工場」との合併後、新屋工場にあった醸造機器のうち使えるものを本社に運び込んだのだが、10本以上のサーマルタンク(温度調整機能付きのタンク)を入手できたのは大きな前進であった。また製麹環境も整いつつあった。当蔵は仕込み量の大きい普通酒がメインの商材であったため、なにかにつけて醸造機器が大きかった。特に麹造りには巨大な「円盤型製麹機」というものがあり、貴重な麹室の相当なスペースを占めていた。これを2年がかりで切断廃棄し、かわりに「箱」といわれるオーソドックスな木製の入れ物を自分たちで設計し導入することになった。当時、副杜氏に昇格した古関氏が「福乃友」時代に扱っていた「大箱」というサイズの製麹箱を作成し、20kgづつ米を格納して麹を造ることにした。なおこの大箱は、同郷の銘醸蔵である「刈穂」の箱を参考にさせていただき、かなり趣向を凝らしたものになった。この後、2018年までの八年間、当蔵の製麹は基本的にこの大箱で成されることになる(これらの箱は「新政」が後に蓋麹製法に移行した際に、三重の「酒屋八兵衛」へと譲られることになる)。

ほか新屋工場との合併により、経営的にも一息つくことができたために冷蔵庫の増築や蔵の修繕なども可能になった。なお新屋工場は敷地全体を売却するため閉鎖され、あとは解体を待つばかりとなったのだが、この翌シーズン、後処理に関して想像もできなかったひどい事件が引き起こされることになってしまう。

人材的には、主要メンバーがシーズン中に相次いで脱退してしまうという災難に見舞われたのだが、入れ替わりに新屋工場から叩き上げの社員が合流してきたために乗り切ることができた。また地元の秋田県立大学から有望な新人が入社してきたのも救いであった。高橋はるか氏は後に植松誠人氏(のちの杜氏)とともに短期間ながら杜氏代行を任されるほどになる逸材であったし、佐々木公太氏は後に副杜氏に昇格することになる。

経営的には、全体に対する普通酒の売上比率が70%以下に落ちたため売上は下がっているものの、手の込んだクラフトものが好調で赤字の額はかなり減少していた。生産量や売上高を犠牲にして、なんとか赤字を止めることを最優先にしていたが、その方向性へは確かに進んでいた。ただし酒質向上のための設備投資も進めざるを得なかったため、様々な経費をカットしなくてはならなかった。ごく少人数での酒造りは非常に激しいもので、蔵元も帰郷以来ほとんど家に帰らず会社に寝泊まりして職務を遂行し、可能な限り人件費を浮かそうとしていた。特に麹造りにおいて、製法を大箱に変更してからは泊まり仕事が基本となってしまったため、より一層帰宅できない日々が続いた。そしてシーズンが終わると、取引先の地酒専門店へ表敬訪問に旅立ち、その合間は様々なイベントへの出席と慌ただしく一年が過ぎる。振り返るに当時は、疲れと緊張のため精神的には常に不安定であり、それは年々悪化してゆくばかりであった。

そして最後に忘れ得ぬ出来事も起きた。シーズン後半の2011年の3月に東日本大震災に見舞われたのである。幸い、東北の中でも秋田は影響が少ない県であった。当蔵としても貯蔵していた酒が数百本破損したくらいで被害は軽微であったが、停電のために製造がストップすることにもなった。

当シーズンの感想としては内も外も混乱が絶えず続く、困難に満ちたシーズンであったのではなかろうか。最後に、このシーズン中に秋田の蔵元集団である「NEXT5」が本格的に活動を開始している。震災以後の秋田酒の隆盛の萌芽はこの年度にあったのだと言えよう。

製造特徴

秋田県産米のみを使用、また純米酒造りに大きく舵を切り替えた記念すべきシーズンである。もともと自県産米にこだわろうとしていたのだが、直接のきっかけとなったのは、2008年に発覚した「事故米不正転売事件」であった。これは発ガン性のある事故米を政府から購入した三笠フーズが、秘密裏にそれらを食用として売却していたという悪辣な食品偽装事件である。これらの事故米は複雑な経緯で全国にばらまかれており、九州地方の中堅酒造会社や有名な本格焼酎メーカーがこれを使用していることも明らかとなった。

当時は、新政酒造も長い経営危機の中にあったため、背に腹は変えられず、「普通酒」やら「本醸造」やらのランクが低い酒に用いる米は、できれば安価なものを使用したい———という誘惑に駆られていた。しかしながら当蔵はこれを機に、考えを根底から改めることとなる。特に熊本の銘醸蔵である「美少年酒造」がこの事件を機にブランド価値を失ってまたたく間に破綻に追い込まれた様は、衝撃以外のなにものでもなかった。目先の利益のために、長い伝統を失ってしまう実例をリアルタイムで体感してしまった我々は、原料米に対する考え方を改めざるを得なかったのだ。今後はより地域性にこだわる。つまり秋田県産米しか使用しない。かつ「加工米」といった安い飯米も使用せずに、適切に栽培された「酒米」を基本として用いることにも決めた。

こうして当季22BYより、新政では「山田錦」も「雄町」も購入することはなくなった。さらには一般の「普通酒」レベルの酒にも秋田県産の「酒米」を使用することにもなった。これは秋田県の一般清酒市場に話題を振りまくこととなる。新たなる当蔵の「普通酒」は、(まだアルコール添加はしていたものの)精米歩合85%の「酒こまち」を原料米としたのである。酒米はあまりに高価なので、安い加工用米のように70%も65%も磨くことはできないので、こうした低精米で造らざるを得ないのであった。

これは後々の純米酒への転換を目論んでのことであったが、実際のところ、造り手の予想を遥かに超える形で、当蔵の「普通酒」の味わいは変貌してしまった。単に原料が低精米になっただけではなく、フレッシュな酒をほとんど濾過も施さずにリリースしたことも一因と言える。そして、そのあまりの味の変化のため、先までの味になれた普通酒ユーザーは次々と離れてゆくこととなってしまったのだ。しかし、これらの取り組みは、いずれアルコール添加を撤廃し、純米蔵となるためには必須のことであった。安い米では良質な純米酒はできないのだ。まずは良い米を使い、あまり磨かないで酒造りをすることでコストを抑える。そしてだんだんと技術が上がるにつれて、アルコール添加量を減らしてゆき、ついには「普通酒」も純米酒となる———というのが段取りであった。

たしかにこの取組は、同業者が心配するほどの売上高の減少に襲われることになってしまった。しかし当蔵は進み続けなくてはならなかった。我々にできることは、ただひたすら理想とする会社のあり方と、日本酒の世界を押し広げるような新しい酒の味を模索することだけであった。

原料米の傾向と、作品の特徴

米品質は40点。9月ころの稲の登熟期に高温が続いたため、かつて経験したことのない非常に溶けにくいシーズンであり、全国的にも難易度の高いオフヴィンテージといえる。秋田の酒米の中でもダントツに溶けやすい米である「酒こまち」はちょうど扱いやすいレベルに仕上がっていたのだが、当蔵で群を抜いて使用量が多い「美山錦」は、硬質米の際たるものであるため、より溶けにくい最悪な品質になってしまった。当季は、他県の酒米を買うことを禁じて、秋田県産米に絞ったシーズンではあるが、そのおかげで米の使用品種が減り、早期に対策が打てたことは唯一の救いであった。

  • 22BY July.2010 - June.2011
    桃やまユ 第二世代
    • 価格:¥1,650-/720㎖・¥3,300-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米55%
    • 原料米:改良信交
    • 原料米収穫地:秋田市河辺市
    • 日本酒度:+2 / 酸度:1.7 / アミノ酸度:0.7

    3季目を迎えた「やまユ」シリーズは、当時としては常軌を逸したようなヴィヴィッドな色合いを身にまとうことになる。いわゆる「ポップラベル」期であり、デザインも味わいも、旧来の日本酒のイメージからかけ離れたものを体現しようという試みがここでなされている。なおラベルのイメージとしては、スティーブ・ジョブスの帰還直後の「アップルコンピュータ」が念頭にある。まさにこの「ポップラベル」シリーズは、アップルの復活を名実ともにもたらした「iMac」のようなものではないだろうか 。その味わいであるが、一見甘みと酸味を強調したものに見えるが、製造上、特に気を使ったのは実はアミノ酸の低減であった。アミノ酸を抑えることで、さほど酸度が高くないながらも、酸味を際立たせ軽い味わいとなるように、主に麹造りにウェイトを置くシフトが採用されることになった。前季に「究」で成功を納めた「きょうかい六号」と「吟味」という麹菌の組み合わせが功を奏し、結果として酒質も飛躍的に向上したと思われる。ちなみに今季は「改良信交」を筆頭に、桃・青・白・緑と4つの色合いの「やまユ」が実際に醸造されたが、新しくセレクトされた「美郷錦」の「緑やまユ」については、製造が順調にいかずお蔵入りとなってしまった。一方で、この「桃やまユ」は甘みの酸味のバランスにおいて傑出しており、まさに当シーズンを代表する名作となった。

    桃やまユ 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    青やまユ 第二世代
    • 価格:¥1,550-/720㎖・¥3,100-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米55%
    • 原料米:美山錦
    • 原料米収穫地:秋田県湯沢市
    • 日本酒度:+2 / 酸度:1.8 / アミノ酸度:0.8

    ポップラベル「やまユ」の次鋒といえる美山錦の「青やまユ」は、濃紺に金箔というあしらいで第二世代が再登場となった。この前季の「青やまユ」はクオリティが基準に満たず残念ながらお蔵入りとなったしまったものの、当シーズンについては鮮烈な甘酸をまとう、まったく新しい味わいでカムバックとなった。あくまでやわらかな「桃やまユ」とは対照的な趣であり、その適度な渋みや苦味を伴った立体的な構造が魅力的であった。このシーズンは米が硬く、特に「美山錦」の醸造は難易度が高いものではあったが、十分な準備期間を経て取り掛かったため、この酒に関しては幸いにも問題なく醸すことができた。このシーズンの「やまユ」は、いずれも突出した酸味と甘みからなる異質な構造を明確に意識して醸されており、のちの「colors」シリーズのベースとなる酒質がここに既に現れ始めていると言える。

    青やまユ 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    白やまユ 第一世代
    • 価格:¥1,550-/720㎖・¥3,100-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米55%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:+1 / 酸度:1.7 / アミノ酸度:0.7

    「やまユ」シリーズに新たに登場となった「酒こまち」の「白やまユ」である。当時から当蔵でも一、二を争う主要原料米となっていた「酒こまち」の「やまユ」が満を持して発売となった。「酒こまち」特有の圧倒的な透明感がその大きな特徴であり、イメージカラーも「白」———具体的には「パールホワイト」に青箔のシンボルマークが採用されることになった。味わいとしては、のびやかで雑味もなく、初心者にはうってつけのライトなテイストが達成されている。キュートなデザインも好評価を受け、初年度から一定の成功を得ることになった。

    白やまユ 第一世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    純米仕込貴醸酒
    茜孔雀(あかねくじゃく)第一世代 ※「陽乃鳥」第三世代
    • 価格:¥1,700-/720㎖・¥3,200-/1800㎖ 完売済
    • 2011.2.24 ¥1,600/720㎖完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:60%
    • 日本酒度:-25 / 酸度:2.0 / アミノ酸度:1.3

    三代目の「陽乃鳥」となるはずであった本作品は、商標権の問題から「茜孔雀」と名称を変えて再スタートすることになった。それとともに、より大胆な構造を取り入れてもいる。その味わいは、より濃厚な甘みとそれに拮抗する(かつての「陽乃鳥」にはないレベルの)強い酸味によって織りなされた前例のないスタイルの貴醸酒であり、そのテイストはまさに灼熱の太陽をイメージしている。これを可能にするにはより糖化力の高い麹と、味わいが雑にならない程度の絶妙な発酵温度の高さなど様々な技術が必要であった。シンボルのフェニックスも真紅に塗り替えられ、ここから3年の間、盟友「風の森」の許諾を得るまでの間、「陽乃鳥」は「茜孔雀」として仮初の姿で「秘醸酒」シリーズを牽引することになる。

    茜孔雀 第一世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    白麹酛特別純米
    亜麻猫(あまねこ)第二世代
    • 価格:¥1,400-/720㎖・¥2,800-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:酒こまち 60%
    • 日本酒度:-5 / 酸度:2.1 / アミノ酸度:0.6

    前シーズン、衝撃的なデビューを飾った「亜麻猫」は、第二世代を迎えてより洗練された姿となった。第1世代は「酸っぱすぎて台所の掃除に使えそう」「はちみつを入れ忘れたはちみつレモンのよう」「案外寿司に合う。なぜなら飲むガリみたいだから」と、そのやりすぎ感に対しては様々な心温まるメッセージをいただくことになったのだが、これらアドバイスを微妙に取り入れて、その個性を失わない範疇で第二世代は醸造されている。端的に言って前シーズンの「亜麻猫」は、ブドウ糖がほぼゼロであった上に、酒度もプラスであったので、そのあたりを改善することでより甘みと酸味が調和した一般受けするキャッチーな酒質が体現されている。ここに、その後に至る基本的な「亜麻猫」のスタイルが形成されたのではないかと思われる。なお、とある酒屋さんに「2年目もあるとは思わなかった」とのお言葉をいただいたが、大方の予想を裏切って、当シーズンの「亜麻猫」も発売と同時に売り切れるというありがたい結果となった。

    亜麻猫 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    低清酒特別純米
    碧蛙(あをがえる)
    • 価格:¥1,400-/720㎖ 限定500本 完売済
    • アルコール分:11.8%
    • 精米歩合:酒こまち 60%
    • 日本酒度:-8 / 酸度:2.0 / アミノ酸度:1.0

    「陽乃鳥」・「亜麻猫」に続く、プライベートラボ(当時の名称「秘醸酒」)の3弾目として構想された「碧蛙」である。プライベートラボの作品群は、それぞれ「極端に甘い酒」「極端に酸っぱい酒」「極端にアルコールの低い酒」「極端に低精米の酒」という、日本酒のエクストリームな領域を切り拓くものとして構想されている。そして、この「碧蛙」は低アルコール傾向の日本酒を極めんとして開発されたものである。「碧蛙」の名称についてであるが、プライベートラボは中国の四神から名前の由来をいただいており、その中から「青龍」に値するものと設定された(なお「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」とも、すべて商標が取られているので、これらオリジナルの名称は使用できない)。当初「青龍」のラインは「醸造用乳酸を使わない新製法」のために用意されており、「翠竜」という酒がそのために造られた。ただし残念なことにこの酒は、第2世代目で大失敗を起こして継続が困難になってしまう。しかしその直後、この「醸造用乳酸不使用の新製法」は「亜麻猫」としてコンセプトが継続されることになる。こうして空席となってしまっていた「青龍」のポジションが新たに「低アルコール」路線に振り分けられたのでる。なお、なぜ「龍」が「蛙」として表現されているかというと、<水にも陸にも棲む生き物>という特性に着目している。こうしてプライベートラボは、「陽乃鳥」が鳥類、「亜麻猫」が哺乳類、「碧蛙(後の天蛙)」が両生類、そして最後に登場する「涅槃龜」が爬虫類として、魚類を除いた脊椎動物が出揃うことになった。なお「碧蛙」は非常に独特な製法で醸されたものであり、当季の諸作品の中でも群を抜いて手の込んだものであった。超高汲水歩合に、掛米を数回分散してもろみに投入する手法を用い、もろみ期間は40日以上かける点など、当時としては画期的なテクニックが満載の酒ではあったが、実際には発売後に「つわり」「ジアセチル」という未熟香が出てしまい、完全な成功作とは言えないものになってしまった。品質的には飲んでも差し付かえないため回収まではしなかったものの、翌季以降は製法上のさらなる変化が必要であるのは明白であった。「碧蛙」はこうして一期限りの作品として終了したのだが、翌23BYにはこれを改良した新作「天蛙」(あまがえる)が満を持して姿を表すことになる。なお、デザインの蛙のマークについては「リアルで気持ち悪い」という声が少なくなかった。このために、リニューアル後の「天蛙」では秋田蕗に囲まれた小さく可愛らしいデザインに変更となっている。

    碧蛙
  • 22BY July.2010 - June.2011
    再仕込貴醸酒
    紫八咫(むらさきやた) 第一世代
    • 価格:¥2,200-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:美山錦 60%
    • 日本酒度:-20 / 酸度:2.1 / アミノ酸度:1.7

    「紫八咫」は単なる貴醸酒ではない。「再仕込み貴醸酒」と呼ばれるもので、前季の「陽乃鳥」を用いて醸した貴醸酒なのである。つまり貴醸酒仕込みの貴醸酒———「再仕込み」貴醸酒なのである。難しいので再度説明しよう。通常の貴醸酒は、在庫の熟成酒を、仕込み水のかわりに使用して醸されるものだ。しかしこの「紫八咫」の場合、単なる在庫の酒ではなく、在庫の貴醸酒を入れて醸されている。つまり、原料にすら高価な貴醸酒が用いられているという、特殊な貴醸酒なのである。しかも、この「紫八咫」は毎年受け継がれて醸造されるというシステムを備えた斬新なスタイルの酒になってゆく。ある年の「紫八咫」は、その次のシーズンの「紫八咫」の材料にもなるのである。こうして老舗の鰻屋のタレのように、最初期の酒の一部が引き継がれていくのである。具体的には2008年の「六號純米」を用いて造られた2009年の貴醸酒が、2010年に「紫八咫」第一世代となり、その後も延々と「紫八咫」の一部分は、再仕込み・再発酵されてゆく。新政が実質的に再スタートした2008年の酒の痕跡が「紫八咫」の中には永遠に息づいているのだ。さて具体的な「紫八咫」の仕込み方法だが、ひとつの仕込みから四合瓶にして約2000本採取することができる。このうち半分である1000本程度が翌シーズンの「紫八咫」の仕込みで使われてしまう。このため、あるヴィンテージの「紫八咫」の実質の販売可能本数は1000本程度である。この程度の本数のため「紫八咫」はたいへん貴重であって、全国で三店舗ほどの特約店にて、年間に百本程度の販売しか行うことはできない。その企画と性質上、長年に渡りゆっくりと販売してゆきたいためである。「紫八咫」こそ、新政の製品群の中でももっとも貴重な酒の筆頭であろう。

    紫八咫 第一世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    85% 純米 第三世代
    • 価格:¥850-/720㎖・¥1700-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:85%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:1.3

    第三世代にして当シーズンでその役割を終えることになった「85%純米」である。低精米の技術も3年目にして確立し、すでに「90%純米」をいかに高品質に仕上げることができるかというのが今後の課題となっていた。実際のところ、こうした精米歩合での醸造が軌道にのったからこそ、今シーズンでの全量秋田県産米への移行が達成されることになり、ひいてはここから二年後に晴れて純米蔵となることも可能になったのである。本業界の低精米純米の先駆けのひとつと言える「85%純米」は、当蔵の歴史を変えた壮大な試みでもあった。これ以降、低精米シリーズは「90%」以上を主戦場にし、定番「涅槃亀(にるがめ)」の誕生へと続いてゆく。

    85% 純米 第三世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    90% 純米 第二世代
    • 価格:¥1,155-/720㎖・¥2,415-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:湯沢市ほか
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:1.2

    前季に続く「90%純米」であるが、さらに出来が良いものとなり市場の評価もたいへん高いものになった。当季から普通酒の醸造も「酒こまち」85%精米となったことにより、低精米を用いた酒造りの技術が向上したのだと思われる。この「90%純米」は、一般的評価としては歴代でも最高度に高かった低精米酒ではなかろうか。後に「新政」はより独自な方向へ変化してゆくが、この22BYそして特に米質に恵まれた翌年の23BYの諸作品は、意図せず市場のニーズに良くマッチした第一次の「黄金期」ではなかったかと思うのである。

    90% 純米 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    純米吟醸 グリーンラベル 第二世代
    • 価格:¥1,400/720㎖・¥2,800-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:55%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田県湯沢市
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:0.9

    地元である秋田県内向けに醸造された「グリーンラベル」である。「酒こまち」を用いているためか、溶けにくいヴィンテージのわりに当季は良好な酒質をおさめたと言える。内容的には「六號 純米吟醸」と同等のものではあったのだが、販売実績としては芳しくなかった。なお味わいについては「六號 純米吟醸」よりも酸味が柔らかく、甘口のをセレクトして、より秋田県民の好みとなるものをリリースしている。

    純米吟醸 グリーンラベル 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    特別純米 ブラックラベル 第二世代
    • 価格:¥1,220/720㎖・¥2,439/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米60%
    • 原料米:吟の清、酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+1 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:0.8

    地元である秋田県内向けに造られた「ブラックラベル」は、製法については「六號純米」とほぼ同スペックである。結果的にやや甘口に仕上がってしまったものを、秋田向けに振り分けることで味の差をつけていた。こちらも秋田県内の酒販店全般やスーパーマーケットに並んでいたのだが、あまりパッとしない売れ行きであった。秋田の地酒専門店からは「スーパーに並んでいるために、専門店では扱いにくい」という声も上がっており、地酒流通の中では扱いづらかったようである。地酒専門店中心の限定流通と、スーパーや一般の酒屋を対象とする広域販売とは両立しにくいということを再度身に染みて感じるようになっていたのがこの頃である。

    特別純米 ブラックラベル 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    山廃純米 ホワイトラベル 第二世代
    • 価格:¥1,140/720㎖・¥2,280-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:65%
    • 原料米:美山錦
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+7 / 酸度:1.8 / アミノ酸度:1.3

    当シーズンで終売となった「ホワイトラベル」は、山廃酒母を用いて醸造される地元向アイテムである。「とわずがたり」と同内容のものとして醸造されているのだが、山廃酒母への取り組み方の再構築のため、惜しまれつつもその役割を終えることとなった。残念なことに、当季の山廃造りが壊滅的な状況となったことが遠因である。高温障害の年の「美山錦」を用いてしまったことも設計上のミスではあるが、6本の山廃を立てたものの2本は失敗。これらは異常に酸度が高い「多酸酒」となってしまい、お蔵入りとなった。残り4本のうち2つは酒母の段階で断念。まともに提供できるものは、仕込み2本分という体たらくであった。このため当季の「ホワイトラベル」・「とわずがたり」は予定よりかなり少ないリリース量しか販売することができなかった。まだまだ生酛系酒母への理解が足りないということが決定的に露呈されてしまった屈辱的なシーズンであったといえる。なお詳細は「とわずがたり」の項で述べることとする。

    山廃純米 ホワイトラベル 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    六號 特別純米
    • 価格:¥1,155/720㎖・¥2,415-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:湯沢市ほか
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.9

    前季は「六號 特別純米」に大幅なリニューアルを施したシーズンであった。当時、秋田県醸造試験場の場長を勤めていた田口隆信氏の助言である「瓶燗火入」並びに「要冷蔵」を徹底したのであったが、当シーズンも引き続きこの方向性を忠実に行うことで、品質はさらに向上することとなった。ちなみに「瓶燗火入」とは、酒を殺菌・酵素失活する際の方法の一つである。酒をまずは瓶に詰めてしまい、これをすみやかに湯煎するものである。一方、もっと簡易的な方法として「蛇燗方式」というものもあった。これは熱した酒を瓶やタンクに流し込むという方法である。この二つを比べると「瓶燗」の方が熱や酸化のダメージが少なく、酒の鮮度が保たれる傾向にある。「瓶燗」した酒を、すぐに冷やし、さらに出来る限り冷蔵庫で保管せよ、というのが田口氏の指導であった。当蔵はすでに「パック酒」をのぞく「普通酒」に至るまでこの方式を採用しており、火入れ酒も生酒に匹敵するレベルの鮮度を備えていた。「六號」は「瓶燗急冷」「要冷蔵」と言うテクニックがどれほど酒の品質を高めるかということを如実に表したブランドとして、業界内外でその名が知れ渡るようになっていた。

    六號 特別純米
  • 22BY July.2010 - June.2011
    六號 純米しぼりたて
    • 価格:¥1,313/720㎖・¥2,625-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:美山錦
    • 原料米収穫地:湯沢市
    • 日本酒度:-2 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:1.0

    酒質をリニューアルした「六號」系統の筆頭酒「六號 しぼりたて」は、当季もいっそう好調であった。当蔵の傾向として、シーズンの最初期の酒がたいへん調子の良いことが挙げられる。一方で、製造体制が落ち着いてくる正月以降は、徐々に実験的手法を定番製品に取り入れてゆくため、一旦酒質が不安定になる傾向がある。しかしながら調整も終わる後半期になるに従って、酒質はより洗練されてゆく。最終的にはシーズン初期とはまったく別物の姿に変貌し、そのシーズンの進化が終了するのである。そのような意味では、「新年しぼりたて」や「六號 しぼりたて」のような酒は、シーズン最初期の醸造であるため、その前年度の完成形をベースにして、余計な無理をせずに造られているため、外れがないことが多いのではなかろうか。なお当季は、この「しぼりたて」以外にも、前のシーズンに引き続いて「なまざけ」「ひやおろし」もリリースされ、いずれも高評価であった。

    六號 純米しぼりたて
  • 22BY July.2010 - June.2011
    六號 純米吟醸
    • 価格:¥1,980-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:55%
    • 原料米:美郷錦
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:+5 / 酸度:1.7 / アミノ酸度:1.0

    3年目を迎えた「六號 純米吟醸」である。このシーズンの「六號 純米吟醸」は、(惜しくも「緑やまユ」としてリリースできなかった)「美郷錦」仕込みの酒となっている。確かに「やまユ」としては個性に乏しいと判断されたことは事実ではあるが、その完成度は高く、丸みを帯びたフルボディの酒質は高級酒と呼ぶにふさわしいものであった。しかしその出来に反して芳しくない売上が続いていた。卸会社を介した販売方法であるために、(直接取引の特約店とは違い)レスポンスにタイムラグがあることは確かであった。良さが伝わるために少々時間がかかるのである。とはいえ、感覚的に「これは六號純米の陰に埋もれてしまうな」という予感があった。味やコンセプトで被ってしまえば、当然客は安い方へ流れてしまいがちだ。いまさら新しく純米吟醸で勝負するには、精米歩合だけではなく、もうひとつ新しいコンセプトが必要なのではないだろうか? こうした悩みから、のちの「No.6」のアイディアが生まれてくるのであった。

    六號 純米吟醸
  • 22BY July.2010 - June.2011
    秋田流 純米酒
    • 価格:¥2,100-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:75%
    • 原料米:酒造好適米
    • 原料米収穫地:秋田県

    「秋田流」シリーズは、「純米」と「本醸造」の2タイプが存在したのだが、当季で「秋田流本醸造」の製造は最後となっている。この頃「新政」は新商品をすべて純米系統(純米仕込の貴醸酒も含む)で揃え、少しづつ成果を出し始めていた。着々と———いやかなりのスピードで純米蔵への道を歩んでいたのではあるが、最後の難関が「普通酒」(パック酒含む)をいかに純米化するかどうかであった。「普通酒」の純米化はコスト的にも技術的にも、かなり難易度が高い。安い米を使っては、純米は美味しい酒にはならない。しかし酒米は高価であって用いる場合はそんなに磨くことができない。少なくても85%くらいの低精米で造らないと、値上げ幅が大きくなりすぎてしまう。日用酒の極みであるパック酒などは10円上がっただけで市場から見捨てられるというような風潮であった。売上の半分ほどを普通酒に頼っていた当蔵にとっては、これはまさに危険極まりない取り組みでしかなかった。しかしながら、やり遂げなくてはならなかった。このまま「普通酒」に売上を依存していては、売上高の加速的な減少により赤字が拡大するばかりであった。願わくば「普通酒」を純米化して、純米が好きな方にとっての日用酒における新ジャンルを切り拓き、この分野でも利益を取れるようにしたい。またなにより純米蔵となることで、蔵の熱意を理解してくれるファンも増えてくれるはずである。加えて手の込んだ新しい作品群がより力を増してくれれば、売上高は激減しても計算上は赤字を脱却できるはずだ———おおまかにこのようなプランで動いていたのである。こうして、2年後に待ち構える「普通酒」純米化の前に「本醸造」クラスを先に片付けておこうということになり、「秋田流本醸造」はシーズン中に最後の作りとなることが決定された。これにともない、同等スペックの「特選 本醸造」も製造中止となり、当季を限りに当蔵の「本醸造」そのものが消滅したのであった。

    秋田流 純米酒
  • 22BY July.2010 - June.2011
    とわずがたり 山廃純米
    • 価格:¥1,155-/720㎖・¥2,415-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:湯沢市ほか
    • 日本酒度:+7 / 酸度:1.8 / アミノ酸度:1.3

    これほどまでに酒造りが恐ろしく、苦痛に満ちたものであったことはない。それほどの苦難を強いられたのが当季の山廃酒母造りであった。この前々シーズンに、秋田清酒(刈穂・出羽鶴)の製造部長であった角田氏から基本を学んでスタートしたものの、結局まともな習得には至っていなかったことが露呈されたである。そもそも年間に数本の醸造では技術が身につきにくかったのだろう、当シーズンの山廃仕込みは酒母担当の奮闘にもかかわらず、初っ端なから不穏な出発となった。添加した酵母の増殖が悪く、アルコールが出なくなる山廃が続出してしまう。これは「早沸き」という現象が起こっていたからである。「早沸き」とは培養した優良清酒酵母を添加する前に、アルコール発酵能力の弱い野生酵母が先んじて酒母内に増えてしまうことを指す。こうした欠陥のある酒母が招く結末は致命的なものとなる。本来ならば、こうした早沸き酒母は決して使ってはならない。しかしながら経営的な不安が判断を鈍らせてしまった。なんとか立ち直ってくれるのを期待して、当蔵は仕込みに使ってしまったのであった。不穏な兆候が見られた2本の山廃は、もろみになった途端さっぱり元気を失い、誰が見ても異様な状況となった。かつて「翠竜」のもろみに起こった悪夢の再来である。酵母のかわりに望ましくない種類の乳酸菌が増殖し始めたのだ。こうなると、ヨーグルトと酢の匂いが顕著な、いわゆる「多酸酒」となってしまう。いかなる手を使っても酵母の元気は戻らなかったため、最終的には大量のアルコール添加で有害微生物の発酵を止めざるを得なかった。それ以降の酒母の出来にも不安が残る有様で、当季にまともな酒としてリリースできた山廃は仕込み2本ぶんだけであった。この苦い失敗は、その後の当蔵にとって大きな踏み絵となってしまう。すなわち、こんな危険極まりない生酛系の酒母など諦めてしまうか? あるいは引き下がらず継続するのか? しかしながら継続するとしても、今までのような年間数本の仕込みでは熟達が遅すぎるのではないだろうか? 毎年毎年、常に不安を抱え続けながらやることになるであろうし、こんな調子で取り組んでも生酛系酒母を極めることなど夢のまた夢なのではないか———? これに対して新政が出した回答は一つ。ここまできて退き下がるわけにはいかない。我々は「生酛系酒母」を極め、いずれ全量「生酛系酒母」にしてやろうと決意を新たにしたのだった。ちょうど専務の八代目蔵元が麹菌アレルギーを発症しており、麹担当から(担当が不在となった)酒母工程に移行することとなったのもあり、「全量生酛系酒母化」は「純米蔵化」の次の目標として掲げられることとなった。翌季からは、できるだけ多くの様々な生酛系酒母に取り組み、かつフットワークを重んじて、客には特にそれを明示せずに販売するスタイルがとられることになる。こうして「とわずがたり」・「ホワイトラベル」という固定的な生酛系酒母の作品は、その役割を終えることになった。

    とわずがたり 山廃純米
  • 22BY July.2010 - June.2011
    佐藤卯兵衛 純米大吟醸
    • 価格:¥2,300-/720㎖・¥4,600-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:40%
    • 原料米:美郷錦
    • 原料米収穫地:秋田県大潟村
    • 日本酒度:+1 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:1.0

    原料米がすべて秋田県産に変更になったため、高級酒「佐藤卯兵衛」のスペックも変更となった。以前は秋田県内版の原料が「山田錦」、そして県外版(日本名門酒会版)は「酒こまち」であったのだが、県外米「山田錦」の使用は廃止されたため、県内版の米は「美郷錦」に変更されている。「美郷錦」は「山田錦」の血をひいている高級酒米であるため、価格の大幅な変更もなくモデルチェンジとなった。この機にデザインも一新され、特に県内版のデザインは洗練されたものとなっている。それぞれの価格が反映された結果、重厚な「県内版」、手に取りやすい「県外版」というイメージで意匠が決定されている。のちに「佐藤卯兵衛」は「県外版」が廃止となるが、その際に「県内版」の廃止も検討された。しかしながら蔵の当主の名を冠した酒であること、また地元のファンの要望もあって、最終的には秋田県限定の地元用ギフトとして延命してゆくことになる。

    佐藤卯兵衛 純米大吟醸
  • 22BY July.2010 - June.2011
    崑崙(こんろん)
    • 価格:¥4,000-/720㎖・¥8,000-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:40%
    • 原料米:美郷錦
    • 原料米収穫地:美郷町
    • 日本酒度:+20 / 酸度:1.8 / アミノ酸度:0.9

    前シーズンの21BYから販売している「佐藤卯兵衛 山廃純米大吟醸」と同内容の酒がこちらである。当季は山廃酒母が総崩れとなっていたが、かろうじて成功した貴重な山廃酒母の一つがこの「崑崙」ならびに「山廃 卯兵衛」となった。「山廃 卯兵衛」が日本名門酒会から全国向けに発売されていたのに対して、「崑崙」は秋田県内限定商品としてリリースされている。もともと当蔵は純米系が弱く、秋田県内で通年販売できる純米大吟醸としては「佐藤卯兵衛」しか存在していなかった。「佐藤卯兵衛」は、年に4回、春夏秋冬に4つの異なる提供方法でリリースされるというのが売りであった(すなわち「あらばしり(生酒)」、「なかどり(生酒)」、「ひやおろし(火入)」、「寒おろし(火入)」)。このように「佐藤卯兵衛」は企画としてはかなり手の込んだものであり、製造に手一杯であり需要を満たすのも難しかった。また生酒と火入れ酒が混在しており、味がバラバラなのも気になっていたため、当蔵としては通年で安定した味わいが提供できる火入れ高級酒が必要と考えていた。こうして秋田県内向けに構想された酒がこの「崑崙」である。内容が「日本名門酒会」の「山廃 卯兵衛」と同一であることの理由であるが、まずは通常の「卯兵衛」と味を差異化する必要があったためである。次の理由としては、生酛系酒母の本領である「熟成」を表現したかった点だ。県外向けの「山廃 卯兵衛」は新酒の時点ですぐにリリースするが、こちらの「崑崙」は最低半年、できれば一年ほど経ってからリリースすることになっていた。生酛系酒母の本領が発揮されて、よく味のりした時点で県内向けにスイッチするという企画である。しかしながら、蔵の方向性の変化を受けて短いリリース期間となってしまい、翌23BYには絶版となってしまった。なお名前の由来であるが、日本酒の銘柄によくある「山」のコンセプトから発案されている。よく「〜山」あるいは「〜富士」といった名称の酒を見るが、どうせなら一番高い山の名前をつけてやったらどうだろうかと考えて調べたあげく、中国の伝説の山である「崑崙」に行き着いたというわけである。日本の山でもないし、実在する山でもないのだが、それもまたクロスオーバーな雰囲気を醸し出しており、新政らしいといえば新政らしい。デザインもかなり凝っており、地元の書家に書き下ろしていただいた文字も良い出来であるし、まだ当時は新政に入社しておらず個人事務所を経営していたデザイナー・石田敬太郎氏によるシンボルマークも理想的に仕上がっていた。これは雲の上にお釈迦様の指が出ているというイメージであったが、壮大なパッケージのわりに短命に終わったのが大変残念である。

    崑崙
  • 22BY July.2010 - June.2011
    究 kiwamu ザ・レッド(究 第三世代)
    • 価格:¥1,500-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米55%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田県立大学生物資源科学部フィールド教育研究センター
    • 日本酒度:+4 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.8

    秋田県立大学との共同開発で醸造される「究」も第三世代となった。当季はがらりと趣向を変えた取り組みに進化している。まず、この酒のためのみに使用する酵母に新しいタイプが加わったのだ。「究」には秋田県立大学教授の岩野君夫氏が独自の技法で採取した「六号酵母」の変異株「PPS-1」が用いられていたのだが、当シーズンは新たに「ARL-6」が加わった。以前の「PPS-1」が苦味や渋みが少なくなる性質を持っているのに対して、この「ARL-6」は爽やかな酸味が特徴である。そしてこの「ザ・レッド」はその「ARL-6」を用いたものであった。次の重要なポイントとしては原料米にもこだわりが付加されたという点である。秋田県立大学は、大潟村に「フィールドセンター」という実験用の圃場を所有しているのだが、そこで栽培された酒米「酒こまち」を使用することになった。そして最後の重要な変更点として、瓶色の変更が挙げられる。前シーズンまでの「究」は水色の着色瓶を用いていたのだが、これを黒瓶に変更したのである。理由は、薄青瓶に入れておいた前年までの「究」に重大な品質劣化が認められていたからであった。薄青瓶に入れて半年以上立つと、たまねぎのような劣化臭が出てくるのが確認されたため、万一の影響を考えて薄青瓶の使用はすべて使用禁止とすることになったのである。後に薄青瓶の酒質劣化作用は学術的に確認・証明されることになるので、このときの早めの決断は吉と出たことになる。

    究 kiwamu ザ・レッド(究 第三世代)
  • 22BY July.2010 - June.2011
    究 kiwamu ザ・ブルー(究 第三世代)
    • 価格:¥1,500-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米55%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田県立大学生物資源科学部フィールド教育研究センター
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.3 / アミノ酸度:0.8

    こちらの「究」は、前季までと同じ6号酵母の変異株であり、苦味を低減するという「PPS-6」を用いて造られている。やや酸味が高めの「ARL-6」との飲み比べを主眼とする組み合わせといえよう。「ザ・レッド」同様に、瓶色は薄青から黒に変更し、それまでの弱点であった「原因不明の酒質劣化の速さ」が完全に克服されている。なお、この岩野教授の酵母選抜の技術は、酵母を培養している培地に特定のアミノ酸を入れてその生育を見るというものである。この「PPS-6」は培地にフェニルアラニンというアミノ酸を加えて培養した際に小さいコロニーを形成した6号酵母である。同様に「ARL-6」はアルギニンという培地を加えて培養した際に大きなコロニーを形成した6号酵母である。さて、どの程度、醸造協会が頒布した株と差異があるのかという点においては、現実的には判断が難しいと言わざるを得ない。実験室でのテイスティングと現場の醸造では、あまりにも条件が違うからである。ただし当蔵にとっては、実はこれらの株の味わいがあくまでも本来の「6号」の味わいの範疇にあることが大事であった。あまりにもオリジナルと乖離した味わいになる酵母であったら使用はしていなかったろう。この時期の新政はより「正統的」「伝統的」な方向へ舵を切っていたからである。

    究 kiwamu ザ・ブルー(究 第三世代)
  • 22BY July.2010 - June.2011
    NEXT5 “Beginning 2010”
    • 価格:¥1,500-/500㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:湯沢市ほか
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.9

    このシーズン22BY(2010-2011)の開始数ヶ月前、2010年3月に「NEXT5」が結成されることになった。これは秋田県の中小の蔵の五つで構成されたプロジェクトであって、メンバーはすべて酒造りを実際に行う蔵元であるという特徴があった。順に「ゆきの美人」「春霞」「白瀑(現・山本)」「一白水成」そして当蔵「新政」である。いわゆる手練れの杜氏を雇っているわけではないため酒造に関する情報も乏しいうえ、どの加盟蔵も赤字に喘ぎ、手探り状態で酒造りと経営を進めていた。こういう次第で、秋田県酒造組合の技術開発委員の長であった小林忠彦氏(「ゆきの美人」蔵元)のもとには県内の若手技術系蔵元が集い、教えを乞うようになっていた。小林氏は秋田県では最も早くから酒造りを自ら手がけるようになった蔵元であり、実際に良質な酒を醸造していたからである。彼を中心にメンバーが集まることとなるのだが、まずは高い営業能力で名が知られ始めていた「白瀑」の山本友文氏、そして「一白水成」という銘柄で首都圏に人気を博していた渡邊康衛氏、当時はまだ亀山精司氏という名杜氏がいた「春霞」の蔵元・栗林直章氏、最後に当蔵の蔵元である佐藤祐輔が順に集うことになる。その後2010年に入り、広島に「魂志会」という蔵元グループができたことを知ったことから、これを参考にグループ名を作ることを発案。「NEXT5」という名称で日本酒の啓蒙運動も行うこととして活動が開始された。3月に結成してからは、7月に秋田市内で結成パーティー、10月に新酒発表イベントである「Autmun Collection “ The Beginning”」を主催。さらに同年12月24日には、初めての共同醸造酒である「Beginning 2010」が新政酒造から発売されることとなる。これは5蔵がある特定の蔵に集まり、酒造りの工程についてそれぞれが得意とするところを担当することで、全蔵の叡智が結集された最高の酒を造ろうとする壮大な試みであった。なお酒母は「ゆきの美人」が担当し、麹は「白瀑(現・山本)」が製造。仕込水は名水百選のある秋田県美郷町の「春霞」から運び込まれ、「一白水成」は原料処理を担当した。酒の出来は非常に好調で、大変上品な味わいに仕上がった。総生産本数3000本であったが、ほぼ予約で完売。「NEXT5」にとっては、幸先の良いスタートとなった。なお余談ではあるが、この共同醸造酒が仕込まれている際に、当蔵は山廃造りに失敗していたところであった。この「Beginning」の隣のもろみが、まさに発酵不良のために異臭を放ち始めてたもろみであり、技術的指導者である「ゆきの美人」蔵元・小林氏に、新政の蔵元がこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

    NEXT5 Beginning 2010
  • 22BY July.2010 - June.2011
    ダークサイド・オブ・ザ・ムーンⅡ 第二世代
    • 価格:¥1,450-/500㎖ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:美山錦35%、美郷錦40%、酒こまち38%
    • 原料米使用割合:美山錦33%使用、美郷錦33%使用、酒こまち34%使用
    • 日本酒度:+1 / 酸度:1.4 / アミノ酸度:1.0

    前シーズンに続いてリリースされた「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」である。複数本製造した公的品評会用の純米大吟醸の、最終圧搾部分を集めた酒である。出品酒相当の味わいが安価に楽しめるというもので企画された作品であり、前季に続くリリースとなった。なお当シーズンは、全国新酒鑑評会、秋田県清酒鑑評会は惨敗の成績となった。佐藤の「見えざるピンクのユニコーン」は新技法が失敗してケムリ臭が出たためそもそも話にならず、古関副杜氏の「オクトパスガーデン」と鈴木隆杜氏の「梨花」が接戦となったが、結局社内外の選考の末に出品された「梨花」は、鑑評会では選外となった。この頃は、蔵内のチームワークがあまりうまくいっていなかったのもあり、そうした陰鬱なムードはどうしても酒に反映してしまうのである。本来は蔵人全員が参加するという題目の「チームバトル」企画であったが、多忙と人間関係の問題でうまく機能させることができず、これらの三作品は佐藤、鈴木、古関がほぼ個人で仕上げることになってしまっていた。

    ダークサイド・オブ・ザ・ムーンⅡ 第二世代
  • 22BY July.2010 - June.2011
    アクロス・ザ・ユニバース
    • 価格:¥1,450-/500㎖ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:美山錦35%、美郷錦40%、酒こまち38%
    • 原料米使用割合:美山錦33%使用、美郷錦33%使用、酒こまち34%使用
    • 日本酒度:+1 / 酸度:1.4 / アミノ酸度:1.0

    「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」と兄弟分の酒としてリリースされた作品である。「ダークサイド」がいわゆる「責め」部分であるのに対して、こちらは「荒走り」という上槽開始直後に出るやや濁った部分の集合体である。コンテスト用に造られた「見えざるピンクのユニコーン」「梨花」「オクトパスガーデン」それぞれの「荒走り」部分が混和されて「アクロス・ザ・ユニバース」となり、「責め」部分が「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」となるわけである。なお、これらのコンテスト出品酒についてであるが、結果としてひとつもそれら本来の名前(「見えざるピンクのユニコーン」など)では発売されず、格下げの憂き目にあったり、イベントの隠し酒などで密かに消費されることになった。コンテスト用の「出品バトル」企画そのものも本シーズンを限りに消滅し、その結果「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」「アクロス・ザ・ユニバース」双方ともこのシーズンで最後のリリースとなってしまった。

    アクロス・ザ・ユニバース
  • 22BY July.2010 - June.2011
    ~山内流 vs 能登流 vs 蔵元流~
    「流派対決2011 in 新政」
    • 月々価格:¥2,600-(720㎖ 2本入×3ヶ月) 完売済
    • ・3月頒布[蔵元流]純米吟醸
    •  (美山錦:精米歩合55%) なまざけ1本・火入れ酒1本
    • ・4月頒布[能登流]純米
    •  (あきた酒こまち:精米歩合75%) なまざけ1本・火入れ酒1本
    • ・5月頒布[山内流]特別純米
    •  (美山錦:精米歩合60%) なまざけ1本・火入れ酒1本

    当季の頒布会は「造り」に焦点をあて、酒造りのコンセプトの違いにより様々な味わいを楽しんでもらおうというものであった。俯瞰的に見て、三つのスタイルが表現が可能であろうと言う構想のもと、「山内流(さんないりゅう)」「能登流(のとりゅう)」「蔵元流」として、それぞれタイプの違う酒をお楽しみいただけるよう努めている。まずは、当時杜氏を勤めていた鈴木隆による「山内流」である。鈴木氏は、蔵元の帰郷前から、季節工である山内杜氏組合所属の蔵人たちに混じって酒造りをしていた。こうしたキャリアを尊重し、生粋の「山内杜氏」として秋田らしい酒造りを披露してもらった。秋田の酒造りの特徴は、その保存食中心の塩辛い食生活から必然的に導かれる「旨口」「甘め」な酒質である。真冬の長期低温発酵を存分に駆使した吟醸造りによって、典型的な秋田酒と言える柔らかな味わいも同時に醸し出すことに成功したのではなかろうか。

    次に「能登流」であるが、富山・五箇村の銘醸蔵である「三笑楽(さんしょうらく)」で研鑽を積んだ副杜氏の古関弘が担当している。能登半島近辺に影響力が強い「能登杜氏」は、山廃造りや熟成酒を得意とし、質実剛健・腰の強い濃醇な男酒が特徴である。古関氏には精米歩合75%というやや低精米の原料を用いて、飲みごたえのある純米酒を醸造してもらうことにした。本来は山廃仕込で仕込むべきでもあったのだが、当季の山廃は途中で打ち切りになってしまったため、それは叶わなかった。

    最後に「蔵元流」であるが、これは当時、同蔵の専務だった八代目蔵元佐藤祐輔の手によるもので、いわば「無勝手流」とでも言うべきものである。蔵元は、広島にある酒類総合研究所での一年半の修行期間が技術的なベースになっており、最新の醸造理論に基づく吟醸造りにおいては一家言持っていた。結果として「蔵元流」の酒は、蔵元好みの甘みと酸味を基調とする独自のスタイルを全面に押し出したものとなった。クラシカルな「山内流」、パワフルな「能登流」に対しモダンな「蔵元流」が華を添えることで、理想的なバランスが構成されることになった。

    流派対決2011 in 新政 3月頒布[蔵元流]純米吟醸
    流派対決2011 in 新政 4月頒布[能登流]純米
    流派対決2011 in 新政 5月頒布[山内流]特別純米